蘭丸参上!A


帰路途中、幼稚園から帰宅した娘が「ねぇ〜まだぁ〜」と電話してくる。
いよいよ、蘭丸を乗せた車がみんなの待つ家に着く。
母の開口一番、「あら〜かわいさぁ〜、でもなんか・・・小さかばってん、大きかね・・・。」
さすが家族・・・セリフまで一緒とは・・・。
子供達は初め、久しぶりに見るピレニーズに少し戸惑いぎみで近づけないし、
蘭丸も見知らぬ地へ連れてこられて落ち着かない様子。
「ほら、ほら」と、お互いを鼓舞するが、なんともぎこちない空気が流れる。
しかし、そこはお互い子供同士、すぐに打ち解けると皆で走り回り始める。
それで蘭丸もずいぶん落ち着いたのか、我が家ではじめての食事を取る。
たっ、食べる、食べる・・・。
そういえば、紋次郎の初めての食事の量にも驚いたが、成犬になるにつれさほど食べなくなっていたの
で忘れていた。
しかも、まさか2ヵ月半の子犬がそんなにと、あなどっていた。
しかし、考えてみれば成長期、2ヵ月半だからこそ食べるはずなのである。
それもただの成長期ではない、人間は数年かけても1〜20kgであるが彼らはたった一年で4〜50kgと
なる・・・。
まるでトトロの呪文に掛かったかのように"グングン"と、まさに"みるみる"大きくなるのだろう。
まずい・・・、また小遣いが減らされるかも・・・と心配になる。

長旅と遊び疲れに満腹が重なり眠くなったのかウトウトはじめた。
う〜ん、眠たそうな仕草もこれまたかわいい。
が、その夜、そのかわいい寝顔に悩まされることになる。
"夜鳴き・・・"
まぁ予想はしていたことではあるが、二階の寝室に連れて行くわけにも行かないので、園主だけいそい
そと毛布を抱え一緒に寝ることに・・・。
クンクンと泣くので、撫でてやるとスヤスヤと寝る。
また泣くので撫でる、寝る、の繰り返し・・・。
しかも、「痛っ!」と頬の痛みに目が覚めると、犬のくせに寝相が悪いらしくその大きな足で殴られてい
る・・・。
「人間の子供も犬の子供も同じだな」と、頬をさすりながら、目をこすりながら・・・・思う。

そして翌日からもやはりよく食べるので、8kg入りのドッグフードもほどなく無くなってしまう。
そのドックフード、1歳までは子犬用で"パピー"と表記してある。
"パピー"・・・・・、この犬を目の前にして・・・少し抵抗を感じる・・・。
週に一度のヤクルトのお姉さんも、月に一度の新聞の集金のおじさんも最初は「あっ、新入りですか?
かわいいですね〜」と目じりを下げられていたのだが、来られるたびに「まっ、また大きくなりましたね」
と目を丸くされ、しまいには「どこまで大きくなるのですか?」と、その成長に圧倒されていた。
またある日、健康診断も兼ねて獣医さんに掛かった時、助手のお姉さんが診察台に蘭丸を抱え上げて
くれた。
手伝おうとすると「だいじょうぶですよ〜、一人で抱えられますから。」と、やさしく微笑まれたので、園主
と獣医さんで「ふっふっふ、いつまでそう言っていられるかな」と、怪しく微笑んだ・・・。
そしてやはり、今では数人で抱えあげている・・・。

しかし、そんなこんなでも生後数ヶ月の彼はまだ"パピー"なのである・・・。
どんなに園主が首を傾げても、それがまるで白熊みたいな奴でも、まるで子牛みたいな奴でも"パピー
"は"パピー"なのである。
それは今の園主にとって、アンパンマンの顔の焼ける速さと同じくらい納得のいかないひとつである。

さて、日に日に大きくなるにつれ先代の紋次郎との違いがいろいろ分かってきた。
当初は紋次郎が小さくなって帰ってきたと感じていたが、やっぱり蘭丸は蘭丸、紋次郎は紋次郎であ
る。
まず、紋次郎は絶対に顔を舐めないある意味愛想の無い奴だったが、蘭丸はうれしそうに舐める。
舐められるほうも別に悪い気はしないのだが、"ペロペロ"とではなく、"ベロンベロン"とである・・・。
また、紋次郎は果物類を口にしなかったが、蘭丸は何でも喜んで食べる。
もちろん我が家の梨もムシャムシャとたいらげる。
おかげで小さいころはよかったが、大きくなった蘭丸は立ち上がると梨の実に手が(口が)届いてしまう
ので、この時期梨園へは連れて行けない・・・。
さらには、子供だからだろうけど蘭丸は疲れを知らない。
どこまでも走る。どこでも掘る。
梨園で放すと喜んではしゃぎ回るし、いたる所に落とし穴を掘る・・・。
蝶々を見つけてはどこまでも追いかけ回して帰ってこなくなり、心配になった頃にゼイゼイ言いながら戻
ってくる。
そうなると当然ながらいつもドロンコである・・・。
洗ってもすぐに"泥の靴下を履いた犬"になるし、白い犬が"泥のブチ犬"になる・・・。
雨上がりなど「あわわ・・・、そんな姿、長野の親に見せたらきっと泣かれるぞ・・・」と心配になるほど豪
快に汚れてくる。そしてその体で抱きついてくる。
「やめろー」と叱っても、また喜んで跳びかかってくる・・・。

そして後日、長野の里の方(きいママ)から手紙と写真が届いた。
そこには、生まれて間もない蘭丸とその親兄弟達が何枚も写っていた。
さらに旅立ちの日の写真もあった。
彼の乗った飛行機を何枚も何枚も小さくなるまで写してある・・・。
「・・・・・・・・・・。」
長野の親(きいママ)さん、いわく、
「兄弟の中で一番おっとりやさんで、一番心配した子が一番遠くへ行ってしまった・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
うちでは、一緒に生まれた他の兄弟犬のようにいつもきれいに、空調のきいた部屋の中で快適にとは
いかない。
いつもドロンコで子供たちからも無茶な事もされる。
それは長野の方の望まれる環境には程遠いかもしれない・・・。
でも、蘭丸が加わったおかげで梶原果樹園は、またさらににぎやかになった。
園主は「こらこら〜ッ!」と、3人+1匹の子供を追いかけて右に左に走り回りっぱなしの毎日である。
幾分痩せたかもしれない・・が、その分子供たちの笑顔も増えた。
娘と紋次郎がそうだったように、蘭丸もみんなと本当の兄弟のように過ごしている。
一緒にドロンコになり、一緒におやつを分け合って食べている。
だから蘭丸も子供達から、どんなに無茶をされても絶対に怒らない。
きっとそんな蘭丸は紋次郎のように、子供達にたくさんの素敵な思い出と、親でさえ教えきれない大切
な事を学ばせてくれることだろう。
出会いは縁だと、つくづく思う
ふとしたことがひとつでも違っていれば、長野で生まれた彼と熊本の園主家族とが一緒に住むことなど
なかったろう。
奇跡的なめぐり合わせに感謝するとともに、お互いにうれしく楽しく年を重ねていければと願う。
蘭丸がいつか兄弟犬に会う時に「うちも悪くないよ」と言ってくれるよう、事故なく天寿を全うするまで一
緒に一日でも長く、"笑う犬"であって欲しい。
それがこんな素敵な相棒を分けてくださった(きいママ)へのせめてもの恩返しだろうと、そう思う・・・。

先代の紋次郎という名前に負けない名前をと、いろいろ考えた。
その中からあの織田信長の名小姓、森蘭丸から"蘭丸(らんまる)"と名づけた。
いつもいかなる時も主人と共に、そして願わくは主人の最期のときまでそのそばにと、はかない願いを
込めて・・・。




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