〜追悼(名犬?迷犬?盟犬?)紋次郎A〜


平成十七年一月十一日未明。
紋次郎が静かに逝ってしまいました・・・・・・・。

死化粧の変わりに精一杯ブラッシングをしてやることにした。
そして彼のことをいろいろと思い出していた。

さかのぼる事約9年ほど前、あるグレートピレニーズを繁殖されている方のところに 嫁さん(大きな声
ではいえませんが、当時まだ苗字は梶原でもなく”ピチピチ”だった。)と、でかけていた。
そこには 数十匹の個性あるグレートピレニーズ達がいて、私は真っ白でコロコロした”子犬”が欲しい
と考えていた。
私達のような来客があると そこの数十匹が「ウオゥッ!ウオゥッ!」と、いっせいに吠えだし その迫
力はかなりすごい!!。
するとその中に「なんだよ〜うるせえな〜」と、いかにもいわんばかりに”のそーッ”と出てきた ”でかい
奴”がいた。
<デカイ!>あきらかに周りの数十匹と比べ、<おかしいくらいにデカイ!!。>
しかも、みんなうれしそうに吠えている中で一声も発せずめんどくさそうにまた犬舎に帰っていっ
た・・・・・・。

「あっ、あれもピレニーズですか・・・・・・?」
おもわず、そう尋ねた・・・・・。

が、嫁さん(ピチピチの頃)は、ちがった・・・・・・。
「この犬、面白いね!」と、なぜか激しく心を奪われたようで、その犬と散歩体験に出かけることになっ
てしまった・・・・・。
散歩途中、その犬は終始無愛想で「やっぱり子犬の誕生を待ちましょかねー」と、私がその犬舎の方と
話して振り返ったその時、何のスイッチが入ったのか嫁さん(ピチピチ)に急に飛びつき、二人でそれは
それは楽しそうにジャレ合いはじめたではないか・・・・・・・・。
その後、まるで手をつないでいるかのように帰ってくる二人に、私の”子犬願望"はもろくも踏み潰され
てしまった・・・・・・・・。

「ははっ、この子もまだ一歳とちょっとですから、子犬といえば子犬ですよ。」

という、そこの方の慰めに「世間一般でいう犬のどの”成犬”よりもはるかに巨大なこの犬を ”子犬”と
呼ぶには・・・・・・」という気持ちを必死にこらえて、
「そうですね・・・・。」と、力無く答えた。

「それにもう少し大きくなりますよ」
「・・・・・・・・・・・・」

(*グレートピレニーズにはアメリカ系とヨーロッパ系とあり日本ではアメリカ系が   多く繁殖されてい
るとのことです。その大きな違いは前者には大きさに制限が   あり、後者には無い!。その犬(紋次
郎)は紛れも無く後者である・・・・・。)

講談社出版の<考える犬>というコミックの”紋次郎"にあまりにも似ているので、その名をそのまま頂
いた。
紋次郎は、8人乗りのワゴン車の約3〜6人分を使って我が家へと やってきた。
母親は見たとたん黙って後ずさりし、父親は突然”鉄工所”に犬小屋を注文にでかけた。
鉄工所の方が父の注文を聞き「ライオンでも入れるとね〜?」と笑って見に来たが紋次郎と対面し、納
得して帰っていかれた・・・・・。
出来上がった犬小屋はものすごく頑丈で、父親は自信たっぷりに
「これなら100年もつ!!」と嬉しそうだった・・・・・・・・・・・?。
初めてうちに着いたその日、彼はバケツ一杯のドックフードをたいらげ・・・コリャーこいつの食費の為に
アルバイトしなければと心配した・・・・・・。
近所を散歩していると「なんていう犬ですか?」というより「これは犬ですか?」と、よく尋ねられ
た・・・・・・。
ご年配の方には「だっだッー、こら〜子牛んごたったい!(うわーこれは子牛みたいですね)」と決まって
声をかけられた。
(そういえば娘は阿蘇で子牛を見て紋次郎みたいと言った)
そのうち遊んでいる近所の子供達が「あっ紋次郎だ」とか「紋ちゃんー!」と集まってきては「俺、この犬
知ってるよ」「私、紋ちゃん触れるよ」と、自慢や度胸試しの対象になっていた。
前述の通り、何かのスイッチが入ると彼は突然飛び掛ってきた。
立てば顔が正面に来て、相撲でいう<がっぷりよつ?>の体勢になる。
散歩途中にそうなると必ず車の中や通行人から指をさされて笑われた。
散歩はリードを引っ張るような犬ではなかったので、大変というわけではなかったが、彼の行こうとする
進行方向を変更するのは、至難のわざだった。
近所を通学する男子高校生には勇んで吠えたりするくせに女子高生には「うわ〜かわいい〜」と、もて
はやされては、ついていこうとして困った。
梨直売所は「あ〜あの”大きな犬のいる梨やさん”」と、いつのまにかけっこう有名になっていた。
子供達に尻尾や耳を引っ張られても踏んづけられても、挙句にはくわえている餌を取り上げられても
「・・・・・」と、口をそのままあけて困った顔をしているそんな奴で、その生涯で本当に怒った姿を見たこ
とがなかった。
大きな体のわりには一人ぼっちを特に嫌う犬で留守番をさせると必ず植木鉢を ひっくり返したり落とし
穴にでも使えそうな大きな穴を掘り、母親の趣味のガーデニングの花畑は彼のおかげで草も生えない
砂漠と化した。

などと、まさに走馬灯のように次から次へと思い出が頭を駆け巡った。
私自身初めて飼った犬が紋次郎で彼には本当に色々な経験をさせてもらったし、
なにより犬も喜怒哀楽がこんなに豊かに顔に出るものなのかと驚かせられた。
残念ながら晩年は”哀”の顔が多かったが、思い出す紋次郎は”喜”や”楽”ばかりだった。

「ようがんばったなー・・・・・。」
「もういやな薬飲まんでよかぞ・・・・・・。」
「もう苦しまんでよかぞ・・・・・・。」
「今までありがとう・・・・・、ありがとう・・・・・・」

ブラシにさまざまな想いを込め、ただ一心にブラッシングをしていた。


〜追悼(名犬?迷犬?盟犬?)紋次郎A〜        おわり。

〜追悼(名犬?迷犬?盟犬?)紋次郎B〜  へ続きます・・・・。

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